「新規事業を立ち上げられる人が、そのまま事業を大きく育てられるとは限らない。」
これは、事業会社で新規事業の立ち上げから組織づくり、収益化まで携わる中で何度も感じてきたことです。
私自身、福岡拠点をゼロから立ち上げ、約30名規模の組織づくりと事業運営に携わりました。
その経験と、中小企業診断士として企業をご支援する中で見えてきたのは、事業フェーズによって求められる人材も、評価基準も、経営者の役割も大きく変わるということです。
経営学では、企業にはライフサイクルがあると言われます。
創業期、成長期、成熟期。
それぞれで経営課題が変わるように、活躍する人材も変わります。
しかし実際には、
「立ち上げた人だから最後まで任せよう」
「優秀だから何でもできるはず」
という考え方になり、人材配置が事業フェーズと噛み合わなくなるケースを数多く見てきました。
これは個人の能力ではなく、役割設計の問題です。
ゼロイチは「答えを探す」のではなく、「答えをつくる仕事」
ゼロイチとは、市場も顧客も正解もない状態から事業を形にしていく仕事です。
診断士として新規事業を整理すると、
最も重要な経営資源は「仮説を素早く検証する力」だと考えています。
不確実性を受け入れられる
創業期には、
情報不足は当たり前です。
100%確信を持って動ける日は来ません。
だからこそ、
不確実性を前提に意思決定できる人ほど、このフェーズでは力を発揮します。
行動量で学習速度を上げられる
ゼロイチでは、
計画書の完成度より、
市場からどれだけ早く学べるかが重要です。
仮説を立て、
試し、
修正する。
このサイクルを高速で回せる人は、新規事業との相性が良いと言えます。
リソースが足りないことを前提に考えられる
創業期は、
人も、
お金も、
時間も足りません。
だからこそ、
「今ある経営資源で何ができるか」
という発想が自然にできる人ほど、立ち上げを前に進められます。
スケールフェーズは「再現性をつくる仕事」
一方で、
事業が軌道に乗ると、
経営課題は大きく変わります。
今度は、
どうやって同じ成果を安定して出し続けるか。
がテーマになります。
ここでは、
創造性よりも、
再現性が重要になります。
属人化をなくす
立ち上げ期は、
「あの人だからできる」
でも成立します。
しかし、
組織が大きくなると、
それはリスクになります。
誰が担当しても成果が出る状態を作ることが、スケールフェーズの本質です。
小さな改善を積み重ねる
ゼロイチでは、
100点か0点か。
という世界です。
しかしスケールでは、
1%の改善を積み重ねる力の方が価値になります。
地味ですが、
この改善を何百回も積み重ねられる組織ほど強くなります。
組織で成果を出す
人数が増えるほど、
成果は個人ではなく組織で生まれます。
採用、
教育、
評価、
権限委譲。
これらを設計すること自体が、経営の仕事になります。
経営者が最も注意したいのは「成功体験の固定化」
企業をご支援する中で、
最も多いのは、
成功体験による人材配置の固定化です。
立ち上げで活躍した人だから、
そのまま事業責任者にする。
改善が得意だから、
新規事業も任せる。
一見自然に見えますが、
これは事業フェーズを無視した配置になっていることがあります。
組織論では、
適材適所とは、
能力だけではなく、
役割との適合性を意味します。
つまり、
「優秀だから」
ではなく、
「今の事業に必要な役割だから」
という視点が必要になります。
評価制度も変えなければならない
意外と見落とされるのが評価制度です。
ゼロイチでは、
挑戦、
スピード、
意思決定、
仮説検証。
こうした行動が評価されます。
一方でスケールでは、
改善、
育成、
利益率、
再現性。
評価項目そのものが変わります。
同じ物差しで評価すると、
どちらの人材も正しく評価できません。
評価制度も、事業フェーズに合わせて変えていく必要があります。
人材配置は「経営資源配分」の一つ
診断士として企業を見るとき、
人材配置は人事の問題ではなく、
経営資源配分の問題として捉えています。
限られた人材を、
どの事業へ、
どのタイミングで、
どの役割に配置するか。
これは設備投資や広告投資と同じくらい重要な経営判断です。
だからこそ、
組織づくりは感覚ではなく、
事業フェーズや戦略と一体で考える必要があります。
まとめ
ゼロイチの事業と、ゼロを1000に育てる事業では、求められる能力は大きく異なります。
どちらが優れているという話ではなく、事業フェーズに応じて適切な役割を担えるかが重要です。
企業が成長し続けるためには、事業戦略だけでなく、人材配置や評価制度も合わせて見直していく必要があります。
中小企業診断士の役割は、個人の能力を評価することではなく、事業・組織・人材を一つの経営システムとして整理し、企業全体が成果を出せる状態を設計することだと考えています。
「今の組織は、本当に事業フェーズに合った人材配置になっているだろうか。」
そんな問いを持ったときは、一度立ち止まって整理してみることをおすすめします。


